法《みのり》の船は六字の船で
六字の船に乗りぬれば
六字の風にまかせとられて
(才市さん.楠1-05:133)
『天下御免』というNHK番組を覚えていらっしゃいますか? 山口崇演じる平賀源内を主人公にした時代劇ですが,時代考証なんてどこ吹く風.江戸時代の閉塞感を現代に重ね,「社会の常識・道徳」という名のガラスの天井を蹴破ろうとする源内たちのドタバタ騒ぎが毎回繰り広げられる・・・そんな連続ドラマでした.時代より早く生まれ過ぎた源内に対し,遅く生まれ過ぎた武士の右京之介,社会からはじかれてしまった盗人稲葉小僧の他,源内たちの理解者で改革者の田沼意次,蘭学の新時代を開いた杉田玄白(坂本九)などが主要な登場でした.ナレーションは水前寺清子.最終回には出演し,自分が登場する場面に自分でナレーションを入れていました.
断片的にしか覚えていないのですが,羊毛の飼育を試みながら失敗し,残された一匹の羊毛を男の子が夕暮れの丘を引いて歩く場面が印象に残っています.
最終回は,田沼意次が失脚し,社会に押しつぶされそうになった源内たちは,フランスに逃れ,フランス大革命の渦中に飛び込んで自由・平等・博愛のために大暴れするという終わり方だったと思います.源内は獄死したと世間を欺くために,源内の墓碑銘を杉田玄白が作るという場面もありました.玄白の作った墓碑銘(「ああ非常の人、非常の事を好み、行ひこれ非常、何ぞ非常に死するや」)があまりに悲痛で,その辛さを少しでも和らげようとした終わり方のように感じられました.
このドラマの主題歌(「船出の歌」)も好きです.
船出だぞ,船出だぞ,
このうら船に帆をあげて
自由の風をつかまえろ
テンテン天下の御免丸
・・・
東に南に西にも北にも吹きまくれ
トンナンシャアペイ(東西南北)吹き飛ばせ
・・・
どこへ行くのも風まかせ
自由の風よ吹きまくれ
・・・
その名も高しオンボロの
テンテン天下の御免丸
年末・年始にふさわしい才市さんの口あいを捜していて,最初に掲げた口あいを見たとき,この「船出の歌」を連想しました.光明の世界から吹いてくる六字(「南無阿弥陀仏」)の風.その風に身をまかせ,自由な(無碍の)世界へと船出する・・・
【補足】
才市さん.楠1-05:133: 楠恭編『妙好人才市の歌 全』の一, 第5ノート, 133番(p.216).
「天下御免」: 放映は1971年--72年だそうです.