風邪を引いて死に損なった才市さんが言うには:
「わしゃ,まだ御恩報謝が足らんので,もっともっと,長生きさせて貰わねばなりませぬ」
(寺本, p.101)
新年,おめでとうございます.皆様,どのような新年を迎えられましたでしょうか.
私も,比較的平穏な新年をこちらの世界で迎えることができました.正月はお浄土で迎えることになるのかな,なんて思ったこともあったのですが,安養浄土はこひしからず,まだまだ,この娑婆世界での「御恩報謝が足らん」かったみたいです.
もっとも,最後は,“いつまで娑婆に置いていても御恩報謝が足りたということにはなりそうもないので,足りんままでさっさと来い”なんてことになるのでしょうけど・・・.
さて,このブログですが,何となく滞っています.今年は気を取り直してもう少し頻繁に書きたいと思っています.
才市さんのことの他,心に“写り”ゆくよしなし事をそこはかとなく書きつくるのもいいかなぁ,もっとも,私の心に写ることはたいてい本を通じて写るので,本の話が多くなるかなぁ・・・などと思案(?)中です.
というわけで,本年もよろしくお願いいたします.
【補足】
寺本:寺本慧達『浅原才市翁を語る』千代田女学園, 1952.
同書128頁以下にも同じ話が出ていますが,それによるとこのとき(1920年1月)の才市さんの風邪はあの「スペイン風邪」だったそうです.この「スペイン風邪」では島村抱月が死んでいますが(1918年11月),抱月は梅田謙敬の親戚にあたります.抱月と謙敬の間には親しい親戚付き合いはなかったようですが,およそ1年前に抱月の命を奪ったスペイン風邪にこんどは才市さんがかかり重態に陥ったという知らせを,謙敬はどんな思いで聞いたのでしょうか.ついあれこれ空想をたくましくしてしまいます.