ままにしょうてて《しようとしても》 そりゃ無理よ
ままになるなら 月の丸さも 欠けはせん
(『さんぎとかんぎ』, pp.83--84)
道長が自分の栄華を誇って
この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば
という歌を詠んだという話がありますが,この「望月の欠けたることもなし」をどう解釈されますか.インターネットで検索してみると,
満月に欠けたところがないように,わが栄華も完全だ
という解釈の他に,
満月はやがて欠けるけど,わが栄華は欠けたりしない
という理解もあるようです.
酒が半分残ったボトルがあるとき,酒のある下半分を見る人(「まだ,半分ある」)と,空になった上半分を見る人(「もう,半分なくなった」)とがいるなんて言うことがありますが,それをまねて,満月を,「欠けたところがない」と見る人と,「やがて欠ける」と見る人に,人は二分できる,と言えるかもしれません.
しかし,まぁ,いずれにせよ,月は欠けていきます.そのとき,どうするか.
「苦」とは,「自分の思い通りにならないこと」あるいは,「自分の思い通りにならないことを思い通りにしようとジタバタすること」だそうです.なるほど,そうですね.苦しい,苦しいと嘆くうちの半分くらいは,自分の思い通りにならないことを苦しんでいるような気がします.
名月をとってくれろと泣く子かな(一茶)
苦しい,苦しいと嘆いている自分は,実は,満月を取ってくれと泣いているこの子と同じと思えば,多少は気が楽になるような(ならないかな?).
姜尚中氏が,“悩むのは大切なことだが,悩む自分に悩むな”と言っていました.名月に手がとどかない現実に直面して悲しみ悩むことは大切なことです.でも,こんなことに悩む私はダメやつだなどと悩んではいけない.それは,名月に手が届かない現実を否定し,月に手を掛けようとして泣き叫ぶ子供のようなものだ,と聞かせいただきました.
【補足】
『ざんぎとかんぎ』:石見の才市顕彰会編・刊, 1991.
「望月の欠けたることもなし」を“満月はやがて欠けるけど,わが栄華は欠けたりしない”と解釈したのは,実は私です.中学校の社会の時間にこの歌が出てきて,意味を答えろと当てられたのです.「望月とは満月のことだな」って教えてくれたので,まぁなんとか答えて,“よろしい”ということになったのですが,その後,確認のために先生が繰り返された説明を聞いて,“ありゃりゃ,よろしくないではないか”と思いました.“満月に欠けたところがないように,わが栄華も完全だ”という説明だったからです.私の答え方が曖昧だったせいか特に間違っているという指摘もなく,私もそれをいいことに黙ってましたが,テストで間違って丸をもらったような,ちょっと落ち着かない気分でした(もっとも,今にして思うと,気付いていたけど,知らん顔してたということも考えられますね).今回,そういう解釈をする人が他にもいることが確認できて,ちょっとほっとして(?)います.