前々回,映画『天平の甍』に描かれた二人の僧の別れについてお話ししました.夕暮れの砂漠を背景に,二人の僧が静かに別れて行く情景が,押さえた筆致で印象的に描かれていました.
この映画にはもう一つ,これとは対照的な別れが描かれています.こちらは,昼間,港の雑踏を背景にした騒々しい別れです.
日本から中国に派遣された一行は,帰国の機会がなかなか整わず,そうこうするうちに,地元の女性と結婚した男がいました.子供も生まれて幸せに暮らしていたのですが,やがて一行が日本に帰るときがやってきます.でも,事情があって,妻や子供を日本に連れて行けない.妻子を捨てて日本に帰るか,あるいは,中国に残るか.決心が着かないままに帰国の日が迫り,妻に引きずられるようにして中国に残ることになってしまいます.
いよいよ船が出る日,男は,港で船を見送ります.でも,“愛する妻子のために祖国を捨て,脱落者という汚名を甘受する”などという潔い決意があったわけではありません.望郷の思い抑えがたく,動き出した船を追って,大声で泣きわめきながら波止場を走り出します.とうとう突端に達し,そこに崩れるように座り込み,顔を涙でくしゃくしゃにしながら祖国に帰って行く船を見送る・・・.惨めで,みっともない,しかし,印象に残る別れでした.
同じ別れるのなら,二人の僧のように別れたい,あるいは,ソクラテスのように別れを告げたいものです.でも,いつもそうできるとは限りません.
「なごりをしくおもへども、・・・縁尽きて、ちからなくしてをはる」(歎異抄).そんな別れになることも多いような気がします.
【補足】
ひょんなことで,帰宅しています.明日からまた長期間家をあけますが,その間,どうするか,今回はないにも考えていないし,準備もしていません.さてさて・・・.