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『ぼうさまになったカラス』
旧ブログ 2017年3月11日 (土)

 先日,『カラスの教科書』という楽しい本を読みましたが,その巻末の関連図書に『ぼうさまになったカラス』という絵本の名が挙げられていました.調べてみると,近くの図書館に所蔵されているようなので,リクエストを出して取り寄せてもらいました.

戦争が続き,村の男たちが戦争に駆り出されて帰って来なくなった頃,村のカラスがいなくなった.カラスは海を越えて戦場に飛んでいき,坊さまになって戦場に斃れた人々を弔っていた.戦争が終わると,カラスは再び村に帰ってきた.

というお話で,作者が信州や宮城で実際に聞いた「現代の民話」がもとになっているそうです.宮城のカラスはシベリアまで飛んで行ったとか.
 たまたま,3月11日だったので,津波で流されたままになっている方々のことが思い起こされました.津波で流された人のところへも,カラスは行ったのだろうか・・・.
 くすんだ金色を背景にした黒いカラスと坊さまの絵も印象的でした.特に,カラスの群れが坊さまに姿を変えかけているところ,あるいは,カラスの面影を残したたくさんの坊さまが歩いて行く後姿を描いた2枚,そして,カラスの姿にもどって次のところへと飛んで行くカラスの群れ・・・.そこには描かれていない,日本に残された人々の悲しみを強く訴えてかけてくる絵でした.

むすこが 死んでも なみだぁだせねえ
ていしゅが 死んでも なみだぁだせねえ
おらたちの かわりに
からすは いってくれただよ

 最後に絵のない頁が一つ.あとで追加された頁だそうですが,そこには

からすよ
二度と
海を こえるな

 これもたまたまですが,今朝,自衛隊がスーダンから引き上げるという新聞記事を見ました.日本の,兵士でない兵士たちは,戦闘ではない戦闘が行われている地域に,海を越えてすでに赴いていたのでした.彼らを追って,カラスがふたたび海を越える日も,近いのかもしれません.

【補足】
 松谷みよ子(文),司修(絵)『ぼうさまになったからす』(偕成社, 1983).
 「あとがき」に「夫を,わが子を戦場でうしなった哀切な思いは,期せずして弔いを烏の坊さまに託したといえよう」という一節があります.僧侶は何を期待されているのか,改めて考えさせられました.

 松原始『カラスの教科書』(雷鳥社, 2013).最近,新書本になったようです.楽しい本で,続編(『カラスの補習授業』)を今日借りてきました.

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