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「この慈悲始終なし」
旧ブログ 2011年3月22日 (火)

この世に生きている間は,どれほどかわいそうだ、気の毒だと思っても,思いのままに救うことはできないのだから、このような慈悲は完全なものではありません.
(『歎異鈔』)

 東日本大震災の被害を伝えるTV報道はどれも平静に見ることができませんが,そのなかでも,比較的早い時期に放送されたある映像が心に焼き付いています.
 飛行機から津波の被害状況を中継しているとき,“あそこに助けを求めている人がいます”というアナウンサーの声とともに,タオルのような白い布が振られている窓が映し出されました.1階部分が水没した住宅の2階で誰かが助けを求めている.懸命に振られる白い布がしばらく映されていましたが,やがて飛行機はその場を離れ,その住宅は画面の外へと消えていきました.
 助けを求めていた人の絶望と不安は察するに余りあります.助けを求める者がここにいるということが伝わったことがせめてもの慰めでしょうか.
 一方,この飛行機に乗っていた人の心中もずいぶん苦しかったことと思います.目の前に助けを求める人がいるのに助けることができない.飛行機では,手を取って励ますことさえできない.助けを求める人がいることを伝えるのが自分たちの使命だと自分自身を納得させるしかない・・・.

 阪神・淡路大震災のとき,トラックに水を積んで配る仕事を手伝われた僧侶の方が近くにいらっしゃいます.近隣のお寺(組内寺院)が協力して,不足していると伝えられた洗剤を門信徒の方々に寄付していただき,代表者がトラックで被災地に届けたことがありました.そのとき,しばらく被災地に滞在して手伝われたのだったと思います.
 その方から,こんなお話を聞かせていただいたことがあります.
 水を入れたポリタンクを受け取り,指定されたところに届けるという仕事だた,途中で,水を求める人にたくさん出会う.でも,そこで水を分けてあげることはできない.そんなことをしたら,救援計画がめちゃめちゃになり,必要なところに水が届かないということになる.水が必要な人は給水所まで行ってもらうしかない.“かんにん,こらえてや”と心の中でつぶやきながら,目を伏せるようにして通り過ぎるしかなかった・・・.

 「同情するなら金おくれ」という科白が話題になったのはもうずいぶん前のことです.私たちの「かわいそう」が,多くの場合は単なる気分に過ぎないことを突きつけてくる科白(と映像)でした.上の二つの話は,これとは次元が異なりますが,私たちの慈悲が不完全なものであることを改めて痛感させられました.

 でも,そういう限界にもかかわらず,懸命に救援に当たられる方,支援の手を差し伸べる多くの方々.以前引用した言葉をもう一度引用します.

 ぼくたちの行う慈悲は思い上がりってことか・・・さびしい気もするなあ・・・
 そうじゃなくて,私たちの不完全な「慈悲の心」を「大きな慈悲」で包んでくださる阿弥陀さまがいてくださるってことじゃない?
(岡橋徹栄 作,広中建次 画『漫画 歎異抄』本願寺出版, 2003)

コメント

この記事を読んで わが町(生まれは名古屋ですが)の明治の念仏者
清沢満之さんの
「天命に安んじ 人事を尽くす」
を思い出しました。前にもコメントに書いたような気がしますがいろんな
縁で思い出させていただき 深謝!!
そういえば いま 我が組(岡崎教区14組)の組長は満之さんの
ひひ孫が勤めて見えます、やはり面影があります・・・
明治のころの言葉使いはとても難解で言われていたことが理解に難いのであまり知りませんが、ご本人は当時門徒さんから「あんたの言ってること
は難しくて解らん」と言われたのに「易しく話してくれと言われれば、そうするのに・・」と言って見えたそうですが 果たして???

破旬様
長らくご無沙汰いたしました.お返事もせず,申し訳ありません.特に,何かがあったというわけでもないのですが,この四月に転勤があり,なんとなく途絶えてしまいました.あえて言えば,通勤距離が長くなって,帰ると電算機の前で知らぬ間に居眠りをしていることが多くなったことが原因といえば原因です.この間,破旬さんをはじめとする行きつけのblogもみていませんでした.

 「天命に安んじ 人事を尽くす」.確かに聞かせていただいたことがありますが,本当にいい言葉ですね.私も多少は人事を尽くすべく努力・・・といってもこのblogを再開することくらいですが.

追記.上のコメントを投稿しようと思ったら,“スパム防止のために次の文字を入力せよ云々”という画面が出てきました.ちょっと間が開くとその間にどんどんシステムが変わっていくのですね.もう少し歳をとったらついて行けなくなりそうです・・・.

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