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「朝は,ひと朝ごとに美しい」
旧ブログ 2010年12月19日 (日)

 今日は穏やかに晴れ,晩秋と言ってもいいような一日でした.このところ,今日のような穏やかな日がしばしば巡ってくるような気がします.木々が葉を落とし下草も少なくなったせいでしょうか,木々や山々も明るく感じます.柔らかい秋の日を浴びて明るく輝いている山肌を見ていると,ふと,“今日,この一日一日をいつくしんで生きる”という言葉が心に浮かんできました.どこかで読んだ言葉でしょうか?
 こんな言葉もありました.

朝はひと朝ごとに美しい.
あなたはまだ若くて分からないでしょうけど.

 ある映画の科白だそうです.学生のころ,何かに引用してあるのを読みました.元の映画を見たいと思いながらそのままになり,もう,何の映画だったのかも忘れてしまいました.しかし,その後,四半世紀もたって,年老いたあるご門徒の方が次のようなことを話してくださいました.

年寄りだから,朝,早く目が覚める.暗いうちからゴソゴソしても若い者の迷惑になるから,布団の中で横になっていると,やがて,障子がだんだん明るくなってくる.それを見ていると,ああ,今日も一日が始まると,なんとも言えない感動がある.

 その方は,その後数年してご往生なさいました.おそらく,上の言葉を語られたときにはご自身の死も見えていたのではないでしょうか.病気などで余命何年と宣言されていたという意味ではなく,そろそろ人生の終着駅も近いと感じるという意味で.

年をとるにつれて,この世界で価値あるもののすべてに一定の境界,おもに時間の境界があることに気づく --- 花や日没・・・[中略]・・・さらに人生そのものまでにね.これらの物のまわりに引かれた,何本ものくっきりした線が,それらに個性を与えているのさ.ちょうど,ダイヤモンドがほかのなによりも輝かしいように
(バラード)

 最初の映画の科白も,年老いた尼僧が若い少女に語る言葉だそうです.限りある命に気づいたとき,限りあるものの美しさが本当に分かるのかもしれません.

人間はみな死を宣せられているが,刑の執行を無期延期されているだけのことである.今は幕間である.・・・[中略]・・・われわれに可能なただ一つのことは,この幕間をひろげること,与えられた時間のなかにできるだけ多くの脈動を入れることである.・・・[中略]・・・この生き生きとした生命感,愛の歓喜と悲しみ・・・[中略]・・・生き生きとした多様な意識の生み出すこの実り・・・[中略]・・・.過ぎゆく瞬間にひたすら最高の性質のみを与えること・・・[後略]
(W.ペイター)

 「過ぎゆく瞬間にひたすら最高の性質のみを与えること」と言っても,それは何も,華々しく活躍するとか大恋愛をすることとは限らないでしょう.

打ちふるえる一枚の木の葉によって,極度の絶望からわずかに分けへだてられた極度の至福.
(サント・ブーヴ)

 これもまた,「過ぎゆく瞬間にひたすら最高の性質のみを与えること」ではないでしょうか.

【補足】
 バラード:「ありえない人間」より.大谷圭二訳『溺れた巨人』(東京創元社,1973)所収.引用は p.218から.因みにこの小説は,臓器移植による延命を拒否して死んでいく老人を描いたSFです.原作は1966年だそうですから,50年を経ずして“SF”ではなくなってしまったことになります.
 映画の科白(?),W.ペーターとサント・ブーヴの言葉は,昔書いた作文に引用したものをその作文から引っ張ってきました.ただ,その作文には出典を詳しく書いていません.
 映画の科白は,“Every morning is beautiful. You are too young to know it.”と英語で引用していますので,“映画で英語を勉強しよう”という類の本で見たような気がします(多分あれ,と思い当たる本はあるのですが,その本は現在行方不明 ^-^;).
 サント・ブーブの本は『月曜閑談』(土井寛之訳,冨山房,1978)しか持っていないので,この本だろうと思うのですが,今,ちょっと探した限りではこの言葉は見つけ出せませんでした.あるいは,図書館あたりでちょっと覗いた何かだったのかもしれません.
 W.ペーターの方は4,5冊あって,しかも厚いものが多いので,探して見る気にもなれません.
 ウン十年前の横着が今頃になって祟るとは.ノートはちゃんと取っておくものですね.このblogでやたら出典を詳しく書くのも,そういう後悔によるところもあります(^-^;;).

コメント

こんにちは
お互い年をとると、今まで目にしていながら見ていなかったものが
見得てくることが多くなりましたね。
花などには全く興味を持たなかったのですが、名前を覚えると道々で
咲いている花が飛び込んできてくれます。全くお金の掛からない楽しみを与えられたようです。
朝が美しい と言われると お隣のいつも物議を醸し出している国を思い出します。朝鮮というのは 朝が あざやか(鮮やか)だからそう呼ばれたと聞いた事があります。反面 日ノ本 という国名は 驕りを感じます。
日の出る国 とは確かに中国や朝鮮に比べて先んじて日の出を迎えて
いることは確かですが、何処を基点に置くかでどちらが先かは変化しますので地球が球体であることを考えれば、どの地域も平等に日の出は来ると検挙に考えたいところですね、比較する問題ではありません。

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