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[才市] あさましが あるゆえに
旧ブログ 2010年10月20日 (水)

あさましが ないならば
みだの浄土は できんのに
あさましが あるゆえに
こさえてもろうた みだの浄土を
(『ご恩うれしや』 pp.208--209)

 仏教には,「機」という言葉があります.要するにこの私のことで,才市さんも良く使っていますね.「凡夫」という言葉もありますが,若干,着目点というか,力点の置き場所が違う.「凡夫」というのは,“煩悩を抱えている存在”という面を強調した言葉でしょう.それに対し「機」というのは,常に「法」と対になって使われる(あるいは,暗黙の内に「法」を想定している)言葉で,“救いの対象”という面に着目した言い方です.
 ここまではいいのですが,では,なぜ“救いの対象である私”を表わすのに「機」という字を当てるのでしょうか.「凡夫」は,漢字からその意味が大体分かります.でも,「機」という漢字と“救いの対象”という意味との関係がよくわからない.「機」という言葉を教えられて以来ずっと疑問に思っていましたが,あるとき,少し調べてみました.と言ってもインターネットもまだなかった頃のことで,専門的な図書館もない田舎のことですから,手元にある本を見るくらいのことしかできなかったのですが,これがどうもよくわからない.
 「機」の意味についてはいろいろ詳しく書いてあるのですが,なぜ「機」という字を当てるのかは書いてない.「機」には“発条(バネ)”という意味があり,そこから来ている(と読める)記述が見つかったのが唯一の成果でした.もっとも,「機」に“バネ”という意味があるのも初耳で,なぜそんな意味があるか,疑問が増えてしまいましたが.
 ここで,基本に戻って漢和辞典で「機」を引いてみると,仏教用語の「機」はなかったものの,なんとなく分かったような気がしてきました.

 機のもともとの意味は,“はたおり機(織機)”のことで,織機全体を指すこともあれば,さらに細かく,経糸を通して上下にギッタンバッタンと動かすあの長い腕の部分を指すこともあるのだそうです.
 これから派生した意味として:

  1. 多数の部品から組み立てられた複雑な道具,いわゆる機械のこと.“飛行機”とか“掃除機”という場合の“機”ですね.
  2. 転じて,複雑精妙なこと.“人情の機微は複雑微妙で子供には分からない”なんて言う場合の「機」です.
  3. さらに,多数の部分が密接に関連して全体として一つのまとまりをなしているもの.「有機的」という場合の「機」がこれでしょう.

 以上は,はたおり機全体を「機」と呼ぶことから派生した意味ですが,一方,あの長い腕の部分を指すことから派生した意味として:

  1. ものごとの始まり,きっかけ.“機会”,“契機”,“機を逸す”という場合の「機」です.はたおりでは,まず「機」をバタンと動かして経糸の間を空け,ついで“杼(ひ)”を使って緯糸を通し,櫛みたいなものを使ってそれを整える,ということを繰り返します.つまり,「機」を動かすことによってはたおりの一サイクルが始まることからこういう意味が生じたのだそうです(機織機の細かいことについては私もよく知りません.詳しくは,たとえばWikipediaをご参照ください).

 このあたりで,だんだん,分かってきたような気がしていました.“バネ”というのもこの辺から出てきた意味のようです.そして,この私のことを「機」と呼ぶ理由もこのあたりにあるようです.
 「仏願の生起本末を聞く」という言い方がありますが,阿弥陀さまが本願を起こされたのは,この私のためでした.この私の「あさましがあるゆえに」,阿弥陀さまは本願を建てられ,「みだの浄土をこさえて(こしらえて)」くださったわけです.つまり,私は,阿弥陀さまが本願を建てられる契機だったわけで,そういう意味で「機」なのだ,だから,「機」は必ず阿弥陀さまの働き,法と対になるのだ,そうか,そうか,これで分かった・・・.

 と思っていたのですが,これは思い違いだったようです(^-^;;).この私を「機」と呼ぶ本当の理由は・・・.これについては,項を改めて続けます.

【補足】
 誰かに聞いてみなかったのか?って言われそうですが,分からないことを大切に抱え込んで,自分で調べたり,答が向こうから飛び込んでくるのを待ったりするというのが私の趣味(?)でして・・・.長い間つっかえていたものがすっと取れたときの快感がたまんない.もっとも,今回のように見当違いのところで“エウレカ!”で叫ぶこともしょっちゅうですが(^-^;).

コメント

こんにちは
機 が約束とおり登場しましたね。
私の受け取りでは 私(人間)を機 と呼ぶのは
はた織機全体ではなくて、機会に固定された縦糸(経・法)
が上下するたびに右左とせわしく行き来する 杼(ひ・横糸を
巻きつめたもの)の様が人間そっくりなので 機 とたとえられる
のだと思っていました。要するに自分の都合でふらふらしている
生き物なのでしょう。それを逃がさず縦糸がしっかり
つなぎとめて一枚の布が出来上がるわけです。
人生最後にやっと一反の布が出来上がるようです。
ちなみにこの杼(ひ)を英語で シャトル と言うそうです。
スペ-スシャトル??

 あらら,そのうち機について書くと言ったこと,覚えていてくださいましたか.誰も覚えちゃいないだろと高を括りつつ,それでも気になってはいたのですが・・・.天網恢恢疎にして漏らさず(ちょっと違うか?).因みに,機について書いてみようかなんて思った理由の一つは釈破さんのblogですが.
 杼をシャトルということは,今回,Wikipediaを見て初めて知りました.私も,シャトルバスとかスペースシャトルを連想しました.行ったり来たりの往復を繰り返すからシャトルと言うのかって納得したのですが,さて,このエウレカ!は,正解でしょうか?

昨日 本山発行の「報恩講」拝受いたしました。深謝
昨年のものは表紙をみて、読んだ記憶があると
思いましたが、内容は全く覚えていず、改めて
ありがたく読ませていただきました。
宮崎幸枝さんの文を読んでいて、医師や看護士は
死を敗北と考える人ばかりですが、死に行く人の
心に処方する薬(言葉)が必要な事を感じます。
お寺は生きている内にお付き合いするところですね
2010年度版の花岡先生の
>なるべく、たくさんの法座にお参りできるようにと、
  日にちをずらしてのお勤めでした
には、「今年はシ-ズンインしたこの時期、家でのんびり
テレビなんぞ見ていないで、一つでも多くお座に着けよ」
とのご催促をいただきました。一昨日、組のお待ち受け
大会が開催され、門徒感話をさせていただいた折に
参加者に「今年は断られるかもしれませんが、お孫さんを
誘って、報恩講にお参り下さい。」とお願いさせていただき
ました。人口増加している自治体ですので、まだ巷には
子供の声が響いているのに、報恩講は過疎状態です。
来年の750回忌には春休みに 母子団参 を組で計画
しているようです。ひよこの歌を歌う子供を沢山育てたい
ものですね。

>さて,このエウレカ!は,正解でしょうか?
このエウレカの意味が分りません 用語解説をお願い
出来ませんでしょうか。

こんばんは.お返事おそくなりました.
 「ひよこの歌普及委員会」でも作りましょうか(^-^).

 「エウレカ」っていうのは,アルキメデスが浮力の原理を発見して裸で走ったときに叫んだ言葉で,「見つけた」,「発見した」って意味だそうです・・・と聞いて,“あ,そうだったのか”と思ったときに叫ぶことにしていますが,今回,インターネット上で検索してみたら,いろいろな使われ方をしているみたいですね.しかも,「エウレカ」という発音は,実は,誤訳だそうで・・・.失礼しました.
 因みに,私の愛読するポーに「ユリイカ」と題する作品(詩論)があります(もっとも,本気で読んだことはありません.ポーさんの小説は好きだけど,詩の話だけはご勘弁を,というところ^-^;).また,「ユリイカ」という雑誌もありましたね.これも詩の雑誌ですから,ほとんど見ていませんが,特集に引かれて何冊か買ったことがあります(はるか昔の話・・・).この「ユリイカ」は,「エウレカ」の英語読み(フランス語読み?)だそうです.

追記:ひよこの歌に気をとられて,大事なことを書くのを忘れていました.
 小冊子の味わいをお知らせくださり,ありがとうございました.

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