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憲法記念日床屋政談
旧ブログ 2015年5月 3日 (日)

 最近の耳障りな言い回しに “丁寧にご説明申し上げ,ご理解を得る” というのがあります.いかにも謙虚な言い方を装いながら,非常に傲慢な物言いのように感じますが,いかがでしょうか.“自分は正しく,間違っているのはお前だ.だから,お前が誤解を改め,正しく理解しろ.自分に改める点などない” と聞こえるのです.

心はそれぞれ執着がある.ある人が是認すれば自分は否認する,自分が是認すれば他人が否認する.自分は聖人ではないし,他人は愚者ではない.ともに(欠点の多い)凡夫にすぎないのである.善悪の理屈は誰がよく定めることができよう.お互いに賢く愚かであることは,鐶(金属製の輪)の端が無いようなものである.・・・.
(『十七条憲法』, 第10条より)

だから,

・・・執われの心をはなれて話し合うことができるならば,道理が自然と通り,何事も成就しないことはない.
(『十七条憲法』, 第1条より)

このような,話し合いによって互いに不十分な点を修正し,真理,あるは適切な政治的解決に近づこうという姿勢が感じられません.極端に言えば,適当に言いくるめてやれ,という姿勢が見え隠れしている.いや,沖縄に対する態度を見ると,言いくるめられなければ力づく,という態度が露骨です.
 国会答弁などでも,政策に対する疑問に正面から答えず,ただ,自分の考え・政策を繰り返すだけという“答弁”が目立つ感じです.これなども,相手とまともに議論する気はなく,議論したような恰好さえしておけばよいという姿勢の現れと見えてしまいます.
 先日,「粛々と」という言い方が反発を受けているという新聞記事を見ました.この「粛々と」という言い方も,政治家お得意の表現で,今に始まったものではないと思います.しかし,安倍内閣ではあまりに「聞く耳は持たぬ」という態度が露骨なので,反発を受けるのではないでしょうか.“丁寧にご説明申し上げ・・・”という言い方も,この内閣の閣僚が使うからよけいに傲慢に聞こえるのかもしれません.
 その一方,自分は正しく相手は間違っていると声高に断定し,自分への賛否を明らかにするように迫る,というやり方が得意な方もいらっしゃいます.これは,“丁寧にご説明申し上げ・・・” とはまったく逆に見えますが,話し合いを拒否している点ではまったく同じです.
 それに呼応して,民主主義では避けて通れないややこしい話し合いを厭う風潮が広がっているように見えます.“スマホ画面をはみ出す議論を拒絶する態度が蔓延している” と誰かがいっていましたが,非常に危ない道を歩んでいるのではないでしょうか.

 学生時代に聴講したギリシャ哲学の講義で,「ヒュブリス」(傲慢)という言葉が何度も出てきたのが印象的でした.その講義では,理性を尊んだ古代ギリシア人が,その一方で,理性(言葉)の傲慢を警戒したことが強調されていたように思います.しかし,理性を軽んじ,言葉による議論を放棄するのも,これまた,傲慢の一種でしょう.威勢のいい空虚な言葉を弄んでいると,また,ネメシス(神=真理への傲慢無礼に対する怒りと罰)の報復を受けるぞォ・・・というこの文章も,ネメシスににらまれてるのかな?


【補足】
 『十七条憲法』:  引用した現代語訳は,「浄土真宗やっとかめ通信(東海教区仏教青年連盟)」サイトからお借りしました.
ただし,このサイト,閉鎖されてずいぶんになるようです.一時休止かと,再開を期待していたのですが・・・.このサイトは,その内容量はもちろん,内容自体も,非常に個性的というか,現代の問題に関して思い切り踏み込んだことを述べるサイトとして (個々の見解に対する賛否は別として) こちらの頭を活性化させ,教えられることが多かっただけに,残念です.もし,閉鎖ではなく,どこかへ引っ越したのでしたら,引っ越し先をご存じの方,是非お知らせください.

 『真宗聖典 注釈版』(本願寺出版) から『十七条憲法』該当箇所を引用します.
(第1条)和らかなるをもつて貴しとなし,忤ふることなきを宗となす.人みな党あり,また達れるひと少なし.ここをもつてあるいは君・父に順はず,また隣里に違へり.しかれども上和らぎ下睦びて,事を論ふに諧ふときは,すなはち事理おのづからに通ふ,なにの事か成らざらん.(p.1433)

(第10条より)・・・人みな心あり,心おのおの執ることあり.かれ是んずればすなはちわれは非んず,われ是みすればすなはちかれは非んず,われかならず聖なるにあらず,かれかならず愚かなるにあらず,ともにこれ凡夫ならくのみ.是く非しきの理,たれかよく定むべき.あひともに賢く愚かなること,鐶の端なきがごとし.・・・(p.1436)

 「粛々と」の新聞記事: 琉球新報 2015.4.8付け. 2015.4.20閲覧

 なお,安部内閣が「粛々」という言葉を使うのは,実は深い深い深謀遠慮があるのではないかというblog記事 (2015.4.30閲覧) がありました.そうかぁ,そこまで読み切れなかったなぁ・・・(でも,こんなこと書いて大丈夫? 来年度から私学助成を見直すなんて言われたりして).

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